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こちらはオリキャラRPGに関する特設ページです
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「あんた、この後予定はあるか。」
インテグラの図書館に軽く動揺が走った。

その男は入館したときから異質な雰囲気を放っていた。
北国では珍しい浅黒い肌、筋肉の発達した巨大な体は衣服を纏うことなくその姿を白昼に晒していた。
そのくせその顔はマスクで被われ表情を伺うことが出来ないようになっている。
とても善良な利用者には見えず、むしろその気配は図書館に危害を加える異物のものであった。
護衛役の金髪の青年は彼に悟られないように密やかに警戒の視線を送り、鹿の角を持つ司書は子供を朗読会の名目で彼の手の届かないところに避難させた。
しかし、その警戒とは裏腹に、彼は至って善良な利用者であった。
歴史書、伝書、園芸書、料理本、児童書と書棚を回り、ごく模範的な扱い方で本に目を通していた。
そして、その異質な存在が風景に馴染み始めたころ、彼はカウンターで司書業務に励んでいたアルフレドに声をかけたのであった。

「僕…ですか?」
「あぁ。あんたの仕事はいつ終わる。」
「そうですね…閉館時間は定時ですがそれからまだ仕事が残っているかもしれませんので正確なことは言えませんが…。」
「解った。待っている。」
アルフレドの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで彼はそう言った。
カウンター周辺の空気、そしてアルフレドの顔までも引きつったように固まった。
「あんたの仕事が終わるまで何時まででも待つ。」
また来る。そう言い残して彼――狂犬は図書館を後にした。


*********


「誤解を招くような言い方はやめてくださいよ。」
「何がだ。」
「あの船長といいキミといいあの船に関わる人は皆さん奔放なんですね。」
もちろんその中には実の兄も含まれているのだが。
アルフレドはぶつぶつと不満を口にしながら目についた本を机の上に置いて行く。
少し日に焼けて色落ちした表紙には、可愛らしい赤いフードを被った女の子と獣の姿が描かれている。
「昔から語り継がれている童話です。この版は大人でも読める物語性の高いものですよ。」
「俺にはよく解らない。あんたに任せる。」
「はいはい。」
夕陽も沈み東の空から星が登り始めた頃、二人の男はインテグラの小さな古書店にいた。
本当は店じまいしている時間だったが、アルフレドが店主に口を聞くと彼は快くそれに応じてくれた。
狂犬からの依頼、それは「一緒に本を探してくれ。」という内容であった。
話を聞くと、ウィンクルムの風習である年末の贈り物で本を贈りたいとのことである、しかし自分ではどんなものを探せばいいのか解らないから探してくれ、と。
素気無いその言い方と、相反するその言葉の内容に思わずアルフレドは噴き出した。

アルフレドの目の前には短時間の間に十冊程度の本が積みあがった。
狂犬から聞いた受け取り手の女性のことを考え、どんな本が適しているかを判断し、選んでいく。
話を持ちかけられたときは渋々と付き合ったが、やはり好きでこの職に就いただけのことはある。
受け取り手の女性の情報から適切な本を選んでいく、その作業は実に楽しかった。
狂犬は最初アルフレドがどんな本を選ぶのかを眺めていたが、そのうちに飽きたのか本棚から一冊の本を抜き取って黙々とそれに目を通していた。
その装丁は、確かアルナの歴史書だったはずだ。それもかなり上級者向けのものだった。
「本は、お好きですか?」
「あまりその小屋には置いていなかった。」
「いえ、その女性ではなくて、キミがです。」
「好きとか嫌いとかよく解らない。ただ読んだ数は少なくない。」
あんたとは比較にならないだろうがな、狂犬はそう付け足した
「その本、難しくはありませんか。」
「いや。昔よく読んだ奴だ。こんなところにあるとは思わなかった。」
「キミが勉強家というのはなんだか意外な感じがします。」
「他に時間の潰し方を知らなかったんだろうな。」



幼い頃、年末になると新しい本が数十冊書庫に増えていた。
外界と切断され、ひたすらに時間をその小さい箱庭の中で過ごすだけの日常にそれは新鮮な空気を運んできた。
そして、それは父が自分を忘れていないという証拠でもあった。
彼は夢中で擦り切れるまでそれを読んだ。


「終わりましたよ。」
アルフレドの声が狂犬の飛んでいた意識を覚醒させた。
会計を済ませて店の外に出ると空にはぽっかりと大きな月が浮かんでいた。
狂犬の手の中の本は丁度10冊。
アルフレドが選びに選びぬいた渾身の10冊である。
「世話になった。」
「いえ、お役に立てて光栄です。喜んでくださるといいですね。」
「あぁ。」
「そういえば、今更ですがキミのことは、何とお呼びすれば良かったんですか?」
「あんたの兄はリカーと呼ぶ。それでいい。」
「それじゃリカーさん。次にインテグラを訪れたときには、是非カードを作ってください。キミにも、キミの大切な人にも、僕はここを利用してほしいと思っていますから。」
「考えておく。」
暫く訪れた沈黙の後、そう言って狂犬はアルフレドに背を向けた。
狂犬の黒い身体が夕闇に溶けると、アルフレドも自分の家への岐路を急いだ。


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