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こちらはオリキャラRPGに関する特設ページです
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なんだかんだでシュリのお話できました
脚本を作るときには本筋をしっかり考えてそれにネタを入れないと進まんのんで・・・
と言われていましたがなんだかすごくよく解ったような気がいたします
とりあえず誰もお借りしておりませんが誰でも絡めるお話ではありますよね
虫食う女がただただ語っているだけの話です
キャラ掘り下げ兼アルナ紹介って感じのお話です

行く川の流れは  



あら……気がつかれましたか?顔色がよろしくないようですわね。
汗、お拭きになりますか?それとも何か飲まれますか?
まぁ、そんな風に動くとお身体に触りましてよ。
言い方を変えて差し上げましょうか?
死にたくないのならあまりお身体を動かさないほうがよろしくってよ。
身体がとても重たく動かしにくいのではありませんか?
手足の先もきっとジンジンと痺れていることでしょう。
武器を持つこともままならないほどに。
体内の中心が火照っていて粘り気のある汗をかく。そして先程から喉が乾いて仕方ない。
うすうす気付いておられるのでしょう?自分が今現在どういう状況におかれているのか。
気を失っている貴方に対して私が何をしていたのか、そもそもどうして貴方はこんな場所でご昏倒なさったのか・・・。
ふふ、そんなに警戒なさらないで下さいな。
別に貴方を取って食おうだなんて考えてはおりませんから。
ただ、その怯えたような顔はとても素敵ですわね。

この近くには穴が空いておりますの。
えぇ、穴ですわ。それが何処に繋がっているのか私には解りかねますが。
大地の奥底へと繋がっているのか、魔界への扉が開いているのか、それともこの世界ではない全く別の世界への架け橋なのか、私は存じ上げません。
ただ、その穴からは少しずつ、少しずつ、染みだしておりますの。
障気とでも申しましょうか、無味無臭で、目には見えない人間にとって有毒な何かがこの大気に混じっているのですわ。
まぁ、ごくごく微細な量ですからこの周囲に住まわれる人々は既に慣れてしまっているし、少し体力がある人ならば全く意に介さない程度のものなのですがね。
そう、貴方は運悪くその気に侵されてぶっ倒れてしまったのですわ。
心配いりません。毒は既に抜いておきましたし落ち込んだ体力も徐々に快復しているはずですわ。
あと数時間もすれば元気に動き回れるはずです。でも今は大人しくしておきなさいまし。
私の周囲には弱い結界が張ってありますの。そこから出ないようになさい。
モンスターと遭遇して戦闘にあうのは今の貴方の体では良いことなど何一つもありませんことよ。
あら、私のことを疑ってらっしゃったの?私が毒を盛って貴方を殺そうとしたと?
ふふふ面白いお方。想像力が豊かでいらっしゃいますのね。貴方がどれほど有名な人物かは知りませんしどうでも良いことですが、貴方を殺しても私には一ゲルトの特になりませんわ。
まぁ、お金の為に人の命を奪う人を私は心の底から軽蔑しておりますけれどもね。
最近は何の流行なのかそのように人の命を商売とする方が沢山居らっしゃるようでとても遺憾なことですわ。
残念ながら私はそれとは真逆の立ち位置でございますの。
まぁ、人の命を商売にするというのはあながち間違ってはいないのかもしれませんけれど。
私は流れの療術師ですのよ。目に付いた人をお節介にも治療しながら旅をしておりますの。
この森を歩いていたのも、近くの村で疫病により多数の死者が出ていると耳にしたからですの。
まぁ、それは私が手を出すまでも無く早々に解決していたようですけれど。既に村の人は治療を受けた形跡が見られましたし、あれは病というよりは死に食い虫と骨食い虫による襲撃事件、と言った方が正しかったようですわ。
まぁ貴方の命を救えただけでもここに来たかいはあったということかしら。
私の名前?そんなことはどうでもよいことですわ。
私も貴方の名前などに興味はありませんもの。私は療術師で貴方は冒険者兼私の患者。それでよいではありませんか。
小腹が空かれたのではありませんか?ふふ大きなお腹の虫だこと。
少し水分も取られた方がよろしくってよ。治療の一歩はちゃんと栄養を取ることですからね。
私の残りでよろしければどうぞ召し上がれ。
美味しいですか?そうそれは良かった。いえ、それはただの水ですわ。さっきそこの小川から汲み取ってきたものですの。
あぁ、それは干しカサビです。アルナでは一般的な携帯用の食料ですわ。カサビをご存知ありませんの?そう、美味しいのに勿体無い。乾季には巨大な石の下に群をなして転がっておりますわよ。人の手の平ほどもある大きなワラジムシですわ。揚げ物にしても干物にしても美味しいのですよ。
まぁそんな顔をなさることないじゃありませんの。先ほどまで美味いと言っていたのはどの口でいらっしゃいますの?
偏見というのは恐ろしいものですわね。先ほどまでの美味い食べ物が一気に汚らわしい虫に。
自分を助けてくれた美しく聡明な療術師がただの虫を食う変な女になってしまうのですから。
そんなことは言っていない?いいえ貴方の心の声は確かに私に届いておりますわ。

・・・・・・今なんとおっしゃいました?いえ、それは人違いですわ。
懐かしいですわね「水の聖女」。昔はよく耳にした名前です。
えぇ。外見からもお解りのことでしょうけれど私はアルナの出身にございます。
「水の聖女」のことはよく覚えておりますわ。活躍していたのは今から10年…くらい前かしら。最近はぱったりと名前を聞きませんけれどね。
「幼くして病魔に苦しむ人の命を救う少女」大衆が喜びそうなフレーズですわね。
あらあら、私のことをその聖女と思われたんですの?中々想像力豊かでいらっしゃいますわね。
残念ながら「聖女」など幻想に過ぎませんわ。実際に居たのは自分の未熟さ愚かさを知らずに肥大化した自尊心を満たすために患者を利用していたただの馬鹿な田舎娘ですわ。
随分と毒を吐くのだと?ふふふだって私はあの娘のことが嫌いなんですもの。
知り合いとは少し違うかもしれませんわね。だって私は彼女のことを知っておりますけど彼女は私のことを存じておりませんから。
聞きたいのなら話してあげても構いませんわよ。アルナの国について、そして「水の聖女」について。
どうせ身体が動かないのなら空を見上げるくらいしか楽しみもありませんしね。



アルナは水の国と呼ばれております。
国土、といってもそう大きな面積があるわけではありませんけどね。その中央を広大な大河がゆうゆうと流れており、そこから枝分かれした小さい川が土地の隅々まで行き渡っておりますの。
水はとても澄んだ色をして、とても深いはずなのに水底まで見ることができるほどですわ。
国の西方は海に面していまして、大河の執着地点となっております。
アルナの風景を切り取るとどこにでも水が流れている、というのは少し誇張された表現ではありますが、けして間違ってはいないと思います。
アルナからアドニアにお嫁に行かれた姫君が居られますが、きっと最初はとても戸惑われたのではないかしら。
水の行き渡った赤土色の大地には水稲が植えられており、お百姓が水牛と共に田を耕す姿が国中のどこでも見られます。
遠くに見える山並みは低く、しかしとても緑が濃い。
天気が良ければ、そのずっと遠くにアドニアの山がぼんやりと見えることもありますわ。
そうそう、その近くには獣人たちがコミュニティを作って生活しておりますのよ。
国の殆どが緑と大河、ほんの少しばかりの街や村という、とても自然が豊かな国なのです。
そんな穏やかな気候に育つものですから、アルナ人は愚鈍だとかのろまだとか酷い言い方を受けることも少なくありません。
まぁ、実際当たらずとも遠からずというところがありますわね。
アルナの人々は土地への愛着はあっても戦ってまで国土を守ろうという意識が浅薄なようです。
まぁ、いつもギラギラと他人のものを奪おうと涎を足らしているよりずっとマシだと思いますけれどね。頭は悪くても心は豊かなのは動物の本分をわきまえている生き方だと思いましてよ。
しかし、穏やかなアルナには一つだけ大きな脅威がありましたの。それが病ですわ。
水が豊富で気候も一年通して蒸し暑いものですから、アルナでは古代から疫病をふりまく虫が多く発生しておりましたの。
アルナの歴史書には人との戦が少ない代わりに、疾病と害虫との戦いがどのページを捲っても書かれておりますわ。
そして、病気と隣り合わせの生活は、療術の発展をもたらしました。
今ではすっかりこの大陸で最も医療の発展した国とされており、王都には様々な国からの留学生で賑わっておりますわ。
その医療の発展を一線で引っ張ったのが、「浄化の力」と「汚濁の力」を持つ乙女の存在だったといいます。
諸説さまざまありますけれども、とある乙女が大河に住まう真っ白な水牛にその力を授けて貰ったとか。
水牛は私たちアルナ人を守り助けてくれる大河の化身であり、神が姿を変えたものとされておりますわ。
その名は「クレタ」と仰りまして、私たちの信仰の対象となっているのですわ。最も、クレタが実在すると信じている人も信じていない人もおられますがね。
えぇそう。アルナの大河が美しく澄んでいるのは王族が神獣クレタに授けられた「浄化の力」で水を癒しているからといわれております。また、その水は相対する「汚濁の力」でいつでも濁ることがあると。
むしろこの力を持つ者が民を統率し、国を纏めていくようになった、という方が正しいのでしょうけどね。
戦に合いにくかったというのもこの力の恩恵といえるのかもしれませんわね。
たとえ無理矢理に国を奪ったとしても、「浄化の力」を失った大河は汚く澱んでしまうのですから。
それならば友好な関係を結んでおいて適当に役に立たせるほうが色々と都合がいいですものね。
・・・話が色々と飛んで申し訳ありません。ですが、話には前置きが必要なのですわよ。
愛の営みも本番行為ばかりを見ていると嫌われましてよ?
えぇ、「水の聖女」はその「浄化の力」を持つ乙女でしたの。
「聖女」は現王の妹君と王立診療所の療術師の間に生を受けました。
アルナでは療術師の地位は低いものではありませんから、王家の娘の嫁ぎ先としては珍しくありません。
若いながらも中々に有能な人と評判の方だったそうですわ。
「浄化の力」を持つ美しい母親と人の命を救うことに使命を燃やす父親。
そんな環境に生まれたものですから、誰が与えたでもないのに娘は絵本の代わりに医学書を、玩具の代わりに医療器具を手にして成長していったそうです。
最初はただ父の真似をしたいというだけだったのかもしれません。子供は親を見て育ちますからね。周囲も親の真似事をする娘をきっと微笑ましく見守っていたことでしょう。
しかし、娘は驚くほどの早さで療術を自在に操るようになりました。
足りない知識を補ってくれる先達も身近に沢山いらしたようですし、彼女自身が元々高い魔力の素養を持って生まれてきたのでしょうね。
娘が父の診療所で初めて患者を癒したのはわずか6歳のときだったと言われております。恐ろしい才能ですわね。
一度力が認められると、彼女はそのまま父の診療所で療術師として力を使うことになりました。
人々は幼くして療術師として患者を癒していく彼女を、いつの頃からか「水の聖女」と呼ぶようになっていきました。
水の国アルナに生まれた、幼くして病魔に苦しむ人の命を救う聖なる力を与えられた少女・・・。
アルナを国の内外に、医療先進国として印象付けるためにはうってつけの人材ですわね。
彼女は、その役割を追った偶像とも言えるものでした。しかし純粋無垢な子供にとってはその周囲からの評価は確かなもので、人格形成をするのに十分なもの。
娘は、次第にこう思うようになりましたわ。

「私には力がある。私は人を救う為に生まれた選ばれた特別な人間なんだ」……。

ふふふ子供らしい口に出すだけで鳥肌が立つような陳腐で恥ずかしい考えですわね。
まぁ周りからちやほやとされ誉め続けられたらそんな風に思うのも仕方ないかもしれませんけれど。
娘はそう思うようになると、いつしか努力をすることも怠るようになりました。
療術師としての治療行為は行っていたようですが、自分の能力を高めるための修業も、医術の知識を蓄えることも次第に後回しにしていきました。
たまたま王族の娘に生まれ「浄化の力」を有していただけで、たまたま人より魔力の素養があっただけで、何が特別なだというのでしょうかね。
本当に選ばれた素質のある人間は努力を怠らない。本当に才のある人間は現状に満足することなく常に上を目指し続ける。そう、どうして思わなかったのでしょうね。
彼女の不運なところは、それをぶん殴って正してくれる大人に恵まれなかったことですわ。
私が当時の彼女の前にいたら、その天狗のように伸びた鼻をバキバキにぶち折ってやったことでしょうけれども。
ふふ、その必要はもうありませんけどね。娘のその薄っぺらな虚栄心はすでに露と消えておりますから。
それは娘が15歳のときの話です。
アルナには雨季と乾季、それから二つを繋ぐ季節の変わり目という風に四季が分かれております。毎日のようにスコールが降る雨季、それは大体三ヶ月ほど続きます。乾季も同じだけ雨が降らない時期が続くのです。
前述した通り、アルナは水の国ですからね。雨季の大河の水量は相当なものになりますわ。
しかし、人々は水とどのように生きていけばいいを知っております。水害など起こすことは滅多にありません。
ですが、その年は違いましたの。
人々が経験したことも無いような量の雨が連日降り続き、例年ならとっくに雨期明けの時期になっても止むことがありませんでした。
太陽が怒って姿を隠してしまったんだ、とか空の上で泣いている女の子が失恋したんだ、とか人々は口々に噂をしておりました。
幸いにして大河には影響はありませんでしたが、枝分かれした下流の川は各地で決壊し、水が人々を襲いました。
水を溜め込むことが困難になった山は崩れ、土石流が村に雪崩れ込みました。
王都はさほど大きな被害はなかったようですが、この年のアルナの町村の半数は甚大な被害を受けることになりました。
地方の村は自分たちだけでは被害をどうすることも出来ないと王に陳情を訴えました。
王は訴えを聞きつけ、その中でも一番被害の甚大な村へ、兵と魔術師と療術師が派遣されることになりました。
この中に、「水の聖女」と呼ばれる娘も居たのです。
療術師としての力というのもさることながら、彼女の名前と姿はそれだけで疲弊した村の人々を勇気付けることになるという考えでしょう。
実際「水の聖女」が訪れる、と聞いた村の人々はとても喜び、希望を胸に抱いたそうですわ。
娘の父親は、王からの勅命をかなり渋っていたようですが、当の娘は自分に与えられた任務を強い使命感を持って受諾したそうです。
「君の存在が村の助けになるんだ」、と言う台詞は「自分は特別なんだ」と思い込んでいる馬鹿な娘のプライドを刺激するに十分ですわよね。
命を受けてから数日後、彼女は療術師の象徴である錫杖を握り締め、胸を弾ませながら村に赴きました。
揺れる船の中では、まだ訪れたこともない村に思いを馳せながら、自分の活躍を夢に思い描いていたことでしょう。
彼女に手を差し伸べる被災した村の人間の姿を。「私が来たからにはもう大丈夫ですよ」そうにっこり笑って言う自分の輝く姿を。




彼女が村で見たものは、自分が想像していたのとは全く違うものでした。
山の裾野に面した村は、斜面から滑り落ちた土砂が大量に押し寄せており、村の半分以上は埋もれておりました。
その中にはまだ助けを求める人々が何人も閉じ込められており、中からは助けて助けてと消え入りそうな声が折り重なって聞こえてきました。
家は水で流され、崩れ落ち、その姿はただの瓦礫と化しておりました。
土砂の被害を免れたところも、浄水と汚水とが交じり合っていて、言葉では言い表すことの出来ない腐臭が漂っていました。
人々は傷つき、力なく体を何かにすがらせてぜいぜいと荒い息をしておりました。
そして、村の端には大勢のもう動くことの無い、かつては人間だった魂をなくした塊が並べられていました。
魔術師は村に着くと急いで土砂を取り除くべく魔術の詠唱を始めました。
療術師は人々の傷を癒そうと祈りを捧げました。
王都から派遣された兵士たちは、人々にいち早く以前の暮らしを取り戻させるようにと、瓦礫の撤去を始めました。
それを見た娘は、どうしたと思われますか?
人々に勇気を与えようと声をかけたと思いますか?療術師として人々の傷を治しに回ったと思いますか?それとも自身の力を使って村を浸している汚水を浄化したと思いますか?
答えは、どれでもありませんの。
娘は、療術師として一番してはならないことを致しました。

娘は、逃げたのです。
「ああああああああああああああああ!!!!!!!! 」
娘は目の前の助けを求める人々の手を振り切って逃げ出しました。
療術師としての仕事も、「水の聖女」の名前も全て忘れていました。娘はただただ恐ろしくて仕方なかったのです。
ほんの少しの生きる可能性にすがろうとする人々の土の下から這い出る手が。欠けた腕を持ち、頭から血を滴らせながら娘に手を伸ばす傷ついた人々が。ぶんぶんと羽虫の飛び回る動かない体が。
思い出すだけでも恐ろしくて、立ち止まったら後ろから手をつかまれて捕らえられそうで、娘はとにかくその場から離れたい一心で走り続けました。
村で見た光景は彼女の知っているものと全く異なっていました。
診療所はいつも美しく清潔で、そこにいる人々は顔色こそ悪くても、いつも身奇麗で穏やかだった。
そのとき娘は、初めて自分が人の死に触れたことに気付いたのです。
娘は、かつて治療を手懸けた患者は一人も死なせることなく救ってまいりました。それが彼女にはずっと自慢でした。
でも、それはただの思い上がりでした。
今まで彼女が患者を死なせることがなかったのは、父が治療が容易な患者しか彼女に回さなかったから。
診療所でありながら人の死に触れたことがなかったのは周囲が娘から死を遠ざけていたから。
娘の技量で助けられる範囲の患者のみを彼女にあてがっていた。それだけです。
過保護と仰いますか?いえ、当然のことをしたまでと私は思います。
汚いものを背負うのは大人の仕事です。それを幼子に見せる必要などありませんわ。
ただ、娘には想像力が少し足りなかったのは悲しいことでしたわね。
慢り高ぶっていた娘は自分の矮小さに気が付きました。そして、絶望しました。

じぶんはとくべつなにんげんなんかじゃないただのからっぽなむすめでしかないんだ・・・・・・・

手に持っていた錫杖はいつのまにか取り落としていました。
サンダルの紐が切れ、裸足になっても娘は止まることが出来ませんでした。
いつの間にか雨が降り出していました。
スコールとは比べ物にならないほど微細な、霧雨と呼べるようなとても柔らかい雨。
雨が彼女の顔に当たると、どろりと黒い液体に変化しました。
どろり、どろり、どろり・・・・・・。
彼女は全身を黒い液体に濡らしながらそれでも泣きながら走り続けました。
ふと気が付くと、娘の前には川が広がっておりました。
アルナの命の大河の支流です。
村を襲った川。しかし人々に命を与える川。
その川は彼女の心に影響を受けたのか、水底が全く見えないほど黒く濁っておりました。
水量が増えてごうごうと雄叫びをあげるその濁流は、娘自身を食らってやろうという巨大な蛇のように見えました。
そして、娘の持つ「汚濁の力」は、彼女自身の身体に流れる水をも蝕んでおりました。
娘自身の意志か、意識を失っての事故だったのかは解りません。しかし彼女は荒ぶる水の中へその身体を沈めていきました。
濁った水は娘の全てを蹂躙するように容赦なく彼女の中に侵入しました。
暗い水の中で上も下も解らず滅茶苦茶にかき乱され、頭は痺れ、思考は段々と麻痺していきました。
自分と世界の境界が曖昧になり、やがて娘自身が水になってしまうような錯覚を覚えました。
そして、娘はアルナの大河に帰り、二度と浮き上がってはきませんでした。

…ええ嘘です。娘は死んでいませんでしたわ。
まぁ恐ろしい顔。そんなに怒ることないじゃありませんの。落ち着いてくださいまし。
困ったお方だこと。ちゃんとした結末をお話いたしますから気を落ち着かせてくださいませ。
娘は生きておりました。実際このときに死んでしまった方が彼女には良かったのかもしれませんけれどもね。一度逃げ出した村に戻ることも、任務を捨ててどこか遠くの地に戻ることも娘には苦痛で堪らないはずですから。
しかし、娘は死ぬことが出来なかった。苦痛を背負うことになろうと、死ぬことは許されなかった。彼女は薄れゆく意識の中で、声を聞いたのです。

"まだ僕の所に来るのは早すぎる"

その声が聞こえると、体がふわりと浮き上がるような感覚を覚えました。
荒れ狂う蛇の如し水は主人に恭順するようにおとなしくなり、濁った水は一瞬のうちに元の清流へと姿を変えました。
水で満たされていた肺には新鮮な空気が入り、細胞の隅々まで行き渡りました。
娘は朦朧とする意識の中、誰かが自分の体をしっかりと支えてくれているのを感じました。
そして、それは彼女を水流から救い上げ、岸辺に送り届けたのです。
不思議なことに、捨てたはずの錫杖、療術師の象徴である錫杖は彼女の手にしっかりと握られておりました。
娘は水を吐き出し、肩で息をしながら川に目を向けました。
先ほどまでの雨は止み、川はまるで時間が止まったように穏やかな流れに戻っておりました。
そして、その川は空の光を反射し、村の方向に向けてきらきらと光の帯となって輝いていました。
声の持ち主が、自分を助けてくれたのが誰だったのか娘には解りませんでした。しかし、彼女はそれが大河に住まう神獣クレタであるということを感じ取っておりました。
娘は溢れ出す涙を拭い、光の指し示す方向へ錫杖を握り締めて走っていきました。


…………これが私の知っている「水の聖女」の全てですわ。
彼女がそれからどうしたのかですって?さぁ、ご自身でお調べになってはいかがですか?
「水の聖女」がそれからどうしたのか、まだ療術師を続けているのか、それとも神仕えの娘になってしまったのかはご想像にお任せいたします。
今ではすっかり名前を聞かないところを考えると、今は父親の診療所にいる、ということはないのかもしれませんけどね。
自分の無力さを知らない方が幸せだったのか、知ることが出来て良かったのか、娘にとってどちらが幸福だったのか私には解りませんわ。
でも、きっと娘は今自分の足で地を踏みしめ歩いていることでしょう。
大河に帰るのは早すぎると神に追い返されたのですからね。
あら、もう体を起こして平気ですのね。汗も引いているし、体温も下がっているご様子ね。
一応数日間は水だけは小まめに取るようになさいませ。水は全てを洗い流してくれますから。
それでは、私はそろそろ旅立つことに致しますわね。
あら何を仰いますの?貴方と枕を並べて寝るなんてご勘弁頂きたいものですわ。
というのは冗談で、近くの町で人を待たせておりますの。
貴方の治療をしていなければ約束の時間を違えることは無かったのですがね。
うふふ良いのです。数時間や数日待たせることなど屁でもありませんし、目の前の患者は誰であろうと治療すると心に決めておりますので。
それが「水の聖女」ではない、ただの療術師の女としての私の矜持ですわ。
それではごきげんよう。また旅をしていれば会う機会にも恵まれましょう。
貴方にも、神獣クレタのご加護がありますように。

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